健康診断で分かる貧血の原因
はじめに
健康診断を受けると、毎回ヘモグロビンが低い方は多いのではないでしょうか。
少々の貧血では症状が現れないことも多いですが、「体がだるく、疲れやすい」「動悸や息切れがする」「眠れない」「めまいや立ち眩みがよくおこる」「氷を大量に食べてしまう」ちょっとした体の不調が、実は貧血のせいだったというのはよくある話です。
貧血を引き起こすもととなっている原因を突き止めずに放っておくと、危険な病気が隠れているのに気がつかない場合もあります。決して侮ってはいけない貧血。
今回は女性の4人に1人が経験すると言われている、貧血の原因や治療、対処法について解説していきます。
貧血とは
血液はカラダの中を巡る重要な体液で、骨髄でつくられます。全身に酸素や栄養分、ホルモンなどを届ける役割があります。
「貧血」とは病気の名前ではなく、血液中の赤血球の数や、その中で酸素を運搬する役割を担うヘモグロビンというタンパク質の量が不足することにより、血液が組織に十分な酸素量を届けられなくなった状態を指します。ヘモグロビンは血流に乗って酸素をカラダのすみずみまで運ぶ働きをしています。
そのため、ヘモグロビンの量が低下するとカラダの組織に十分な酸素が行き渡らず、さまざまな不調があらわれるようになります。
症状
貧血の主な初期症状は、疲労感、倦怠感、顔色が悪い、軽い運動でも動悸、息切れがする、などが挙げられます。進行すると、頭痛、目まい、立ち眩み、運動中に筋肉のけいれんなどの症状も出てきます。貧血があっても、初めはほとんど自覚症状がない場合や、運動している時だけ症状が出ることもあり、健康診断で指摘されて初めてわかる人も多いです。
鉄欠乏性貧血では、爪が割れやすい、唇や舌の炎症、髪が抜ける、肌が荒れるなどの症状があります。
巨赤芽球性貧血では、手足のしびれやチクチクした痛み、進行すると抑うつ症状、記憶障害などの神経症状が加わることもあります。
疲れやすい
ちょっとした時にすぐ疲れが出てしまうという症状は、貧血で体が酸素不足になるとよく表れます。筋肉が酸欠状態になると代謝が悪くなり、だるさや肩こりなどを引き起こします。
顔色が悪い
元々、頬の赤みはヘモグロビンの色素から来ているので、貧血になると血の気が引いて顔が青白くなります。爪と同様に、鉄不足によって新陳代謝が鈍くなり、肌の潤いも失われます。
血液中の酸素量が低下している中で、より多くの酸素を全身に巡らせようと体が無理をしてエネルギーを使うため、呼吸が速くなり動悸を感じることもあります。
めまい、立ち眩み、頭痛
貧血により脳が酸素不足になって起こるめまいは、足元が安定せず浮遊感のような独特な感覚を伴うのが特徴です。
すぐに息が切れる
爪が割れやすい、髪が抜けやすくなった
爪が弱ったり、薄く割れやすくなったりします。鉄欠乏性貧血の人は爪の先がそり返る「スプーンネイル」にもなりやすいといわれています。体の各組織にある鉄が減ることで、髪や皮膚にも影響を及ぼすことがあります。
原因
貧血は、赤血球に含まれるヘモグロビンが減少している状態を指します。
がんそのものや、がんの治療、鉄やビタミンの欠乏による栄養障害など、さまざまな原因によって起こります。
鉄欠乏性貧血
鉄はヘモグロビンの材料であり、鉄が不足すると働きのよくない赤血球になります。鉄欠乏性貧血の主な原因は食事内容が偏っていたり、無理なダイエットをしたりすることです。
鉄欠乏性貧血の診断はフェリチン(FRN)が12ng/mL以下の場合に行われます。
栄養欠乏
胃切除後、萎縮性胃炎などに伴うビタミン欠乏、アルコール多飲、栄養不良に伴う葉酸欠乏、さらに稀な原因として銅欠乏が貧血を起こすことがあります 。
慢性の病気
全貧血の3分の1程度が「慢性疾患に伴う貧血」に分類されます。慢性腎臓病、関節リウマチ、甲状腺疾患などが原因となります。
血液の病気
再生不良性貧血(血液を作る工場である骨髄の機能が低下する)、骨髄異形成症候群(血液を作る工場である骨髄で正常な血球が作れなくなる)、白血病(腫瘍化した異常な白血球が大量に増殖し正常な血液が作れなくなる)、多発性骨髄腫(骨髄で免疫細胞の一種である形質細胞が腫瘍性に異常増加し正常の血液産生を妨げる)などの血液疾患が原因となります。
出血
生理や子宮筋腫などによる経血量の増加、消化器系の疾患などによる慢性的な出血が原因となります 。
貧血になりやすい人の特徴
食生活が偏っている人
特に過度なダイエットなどで栄養(特に鉄分)が不足すると、貧血を引き起こします。
出血を伴う病気がある人
子宮筋腫や胃潰瘍など出血を伴う病気がある人は貧血になりやすいです。
妊娠・授乳婦
妊娠・授乳期は鉄分の必要量が増えるため、貧血になりやすいです。
成長期の人
特に9~18歳頃の思春期は体の成長期であり、身長も伸びて筋肉や血液量も増えるため、多くの鉄分が必要となります。
ストレスを抱えている人
ストレスによって食欲や胃腸の働きが低下し、食事による鉄分摂取量が不足するため、貧血になりやすいです。
女性
毎月生理がある女性は一番貧血になりやすいと言えます。特に生理での出血量が多い女性は貧血になりやすいです。
これらの特徴を持つ人は、貧血になりやすい可能性があります。貧血の症状がある場合や、これらの特徴に該当する場合は、医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることをお勧めします 。
女性に貧血が多いのはなぜか?
人間が赤血球の割合を正常に保つためには、毎日一定の量がつくられなければなりません。しかし女性の場合は毎月月経で血を失うため、貧血につながりやすいと考えられます。
女性は初経から閉経までの期間のうち、約10%程度が鉄欠乏性貧血状態にあるといわれています。
また、妊娠や授乳によっても、体内の鉄分が減少しがちになります。さらに過多月経の場合には、その割合はもっと増えてしまいます。
ライフステージとともに貧血になる原因は変わっていきますので、ステージごとにみてみましょう。
【10代】
摂取する鉄分の量よりも消費される量が多くなると鉄欠乏性貧血が起こりやすくなるので、鉄欠乏性貧血に注意。過度なダイエットや食事のバランスに注意が必要です。
【20代~45歳】
鉄欠乏性貧血に加えて、婦人科系や消化器系の病気などによって出血が持続すると、貧血になることがあります。子宮筋腫・子宮腺筋症などの病気にも注意しましょう。
【妊娠~授乳期】
赤ちゃんに栄養を与えることで、栄養不足による貧血を起こすおそれがあります。鉄分だけでなく、葉酸やビタミン不足も起こりやすくなるので、食事のバランスと十分な栄養を摂取しましょう。
【45~50代】
閉経が近づいて月経周期が短くなったり、子宮筋腫や子宮腺筋症による過多月経が続くと貧血を起こしやすくなります。
ライフステージにかかわらず、年齢を重ねると造血機能の衰えによる貧血や、がんなどによる貧血も心配になってきます。健診結果などで異常がある場合は「毎回のことだから」と慢心せずに医療機関で確認するようにしましょう。
貧血を調べる検査
貧血の診断に一般的に用いられているのは、血液検査の1項目である血液中のヘモグロビン濃度(血色素量)です。WHOの基準では成人男性13.0g/dl未満、成人女性と小児(男女)は12.0g/dl未満、高齢者(男女)は11.0g/dl未満が貧血と定義されています。また、赤血球数や、全血液量に占める赤血球の割合を示すヘマトクリット値もよく用いられます。いずれも、健康診断で一般的に行われている血液検査ですから、貧血かどうかは比較的簡単に判断できます。
その貧血を起こしている原因疾患が何であるかについては、血清フェリチン値という血液中の鉄に関する検査、その他の血液検査、便潜血検査、内視鏡検査、骨髄検査、遺伝子検査などを行って詳しく診断していきます。
当院の健診・人間ドックでは人間ドック学会基準値を採用しております。
ヘモグロビン濃度(血色素量)基準値
男性:13.1~16.3g/dL
女性:12.1~14.5g/dL
治療・対処法
貧血の治療
貧血を引き起こしている原因によって、治療法は異なります。
最も多く見られる鉄欠乏性貧血は、鉄剤の服用により2~3ヵ月様子を見るのが一般的です。
一方、ビタミンB12や葉酸の不足による巨赤芽球性貧血はこれらの栄養素を薬で補充します。胃のビタミンB12吸収障害を伴う場合は悪性貧血と呼ばれ、昔は死に至ることもある病気でしたが、今は薬物治療(ビタミンB12の筋肉注射)を継続すれば健常者と変わらない生活が可能になりました。
消化器のがんや潰瘍などで過剰に出血し、貧血に陥っている場合はそれぞれの原因疾患に応じた治療が必要です。
また、再生不良性貧血、骨髄異形成症候群は難治性疾患ですが、現在では輸血、免疫抑制剤、造血幹細胞移植や抗がん剤など新しい治療法が開発されています。
重症の遺伝性球状赤血球症は脾臓摘出が唯一の治療法ですが、手術でほぼ治癒が可能とされています。
造血機能の病気、赤血球を破壊する病気、重症の貧血は専門的な治療が必要である場合が多いため、血液内科の医師の診療を受けるか、またはかかりつけの医師に相談してください。
貧血の対処法
貧血によるめまいや立ち眩みが起こった場合は、「すぐにその場でしゃがむ」が有効です。
ふらつきやめまい、意識が遠のくような感覚があるときには、すぐにその場にしゃがみ、落ち着くまで様子をみましょう。症状の悪化や転倒の予防になります。薬物療法などによって貧血と血小板減少が重なる時期には、ふらつきやめまいなどによる転倒が致命的な出血を引き起こすこともあるため、特に注意が必要です。
ふらつきやめまいが落ち着いてからも、急に立ち上がることは避け、歩き出しは一呼吸おいてゆっくりと行うとよいでしょう。すぐつかまることができるよう手すり側を歩いたり、歩道の奥側を歩いたりして危険を避けるようにします。
運動やマッサージをする
手足のストレッチやマッサージなどで緊張感を和らげることは、貧血によって生じるだるさ・倦怠けんたい感を軽くするために効果的であるといわれています。症状が軽くなったら、可能な範囲で、ウオーキングなどの運動を行うことも良いでしょう。
食事を工夫する
ヘモグロビンの材料となるタンパク質や鉄分を豊富に含む食品を摂取し、バランスの取れた食事を心がけましょう。タンパク質は、魚や肉、卵、チーズ、ミルク、ナッツ、豆など、鉄分は、プルーンやレーズン、豆などの食品に多く含まれます。ビタミンB12、葉酸は赤血球やヘモグロビンの材料となるので、肉、魚介、大豆、乳製品、ビタミンやミネラルを多く含む海藻や野菜を毎日、欠かさず食べましょう。鉄分、葉酸が不足しがちな妊娠中、授乳中は特に注意が必要です。鉄血性貧血では、鉄分の吸収の問題あり、食後はコーヒーを飲むことはなるべく避け、ビタミンCの豊富な果物類の摂取が望ましいです。
鉄分やビタミンB群が血液にとって重要なことは前述のとおりですが、糖質や脂肪分を摂らないダイエットも貧血の原因となってしまうことがあります。
糖質や脂肪は人間の体にとって重要なエネルギーとなります。その糖質や脂肪が不足すると、体はたんぱく質をエネルギーとしてしまいます。つまり、血液を作るのに重要なたんぱく質がほかに使われてしまうのです。
貧血にならないようにするには、最低限の糖質や脂肪は必要です。そして植物性たんぱく質と動物性たんぱく質を組み合わせた食事を摂るようにしましょう。どうしても1日1食は糖質をオフにしたいと考えるなら、豆腐などたんぱく質を含む食品を主食代わりに食べるなどの工夫が必要です。
まとめ
ヘモグロビンの材料となる鉄不足で起きる「鉄欠乏性貧血」は若い女性の4人に1人が経験しているといわれており、貧血の70~80%が、鉄分が欠乏するために起きる貧血だといわれています。
特に女性は「貧血」になりやすいので、過度なダイエットや偏った食事をしている場合は注意が必要です。
よくある疾患だからこそ「いつものことだから・・」と油断しがちなものです。健康診断でヘモグロビンが低かったり、症状がある場合には一度、医療機関の受診をお勧めします。
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