糖尿病とは 健診会 東京メディカルクリニック

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糖尿病とは

日本の糖尿病患者数は、生活習慣と社会環境の変化に伴って急速に増加しています。
糖尿病は一度発症すると完全に治るということがないため、生涯を通してうまく付き合っていくことが大切となります。
放置すると網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こし、末期には失明したり透析治療が必要となることがあります。
さらに、糖尿病は脳卒中、虚血性心疾患などの心血管疾患の発症・進展を促進することも知られています。
これらの合併症は患者さんの生活の質を著しく低下させ、今後も社会の高齢化にしたがって増大するものと考えられています。
正常高値、境界型と診断された時はもちろん、糖尿病になる前から早期に生活習慣改善に取り組むことが重要です。糖尿病のことをよく知り、皆さまの健康管理に役立てて頂ければ幸いです。

糖尿病の病態

1)糖尿病の病態

①糖尿病とはどんな疾患か1)

糖尿病は、インスリンの作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とし、種々の代謝異常を伴う疾患群です。この疾患群に共通の特徴であるインスリンの作用不足は、糖、脂質、タンパク質を含む広範な代謝系の異常をきたします。代謝異常の長期間にわたる持続により、細小血管症(網膜症・腎症・神経障害)、および動脈硬化を主体とする大血管症などの合併症を引き起こします。
インスリン作用が不足する機序は、インスリンの供給不全(インスリンが出ない、十分な量が出せない)と、インスリンが作用する臓器(細胞)におけるインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)とがあります。そのことによって生じる慢性高血糖を主徴とする代謝疾患が糖尿病です。特に日本人やアジア人は、欧米と比較してインスリン分泌不全型が多いのが特徴です。

②日本における2型糖尿病発症の要因

欧米人と日本人のインスリン抵抗性とインスリン分泌能を比較すると、正常耐糖能(NGT)の段階で日本人は欧米人と比較してインスリン分泌能が低いことが特徴として挙げられます(図1)。

図1 欧米人と日本人のインスリン感受性と分泌能の比較

図1 欧米人と日本人のインスリン感受性と分泌能の比較
(稲垣暢也、日本人型インスリン分泌不全を考える、日本内科学会雑誌105巻3号、20162)より)

日本で増加している2型糖尿病は、インスリンの分泌不全(遺伝因子)に、肥満、運動不足、加齢に基づくインスリン抵抗性(環境因子)が加わった結果、インスリンの作用不足が生じて発症します。
日本人では体質的にインスリン分泌能が低いうえに、肥満の増加によるインスリン抵抗性の増加が加わって糖尿病患者さんの増加につながっていると考えられます(図2)。また、インスリン分泌低下インスリン感受性の低下の両者が発病にかかわっていますが、この両因子の関与の割合はひとりひとり異なります。

図2 日本における2型糖尿病増加の要因

図2 日本における2型糖尿病増加の要因
(門脇孝ほか、第三期 特定健診・特定保健指導ガイド、南山堂、2018 3)を参照し作成)

糖尿病の自覚症状

代謝異常の程度によって、無症状からケトアシドーシスや昏睡に至る幅広い病態を示します。
軽度であればほとんど症状がなく自覚症状が乏しいため、長期間放置されることもまれではありません。一方で、高血糖が著しい場合は、口渇、多飲、多尿、体重減少などの症状がみられます。極めて重症の場合、ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態をきたし、ときに意識障害や昏睡に陥り、適切な治療が行われなければ死に至ることもあります。

3)血糖値が高いとなぜよくないのか?4)

血液中に糖が多い状態が長期に渡って持続すると、血管や神経に障害が起きてきます。血管障害は、細小血管障害大血管障害の二つに大別でき、高血糖は双方の危険因子であるものの、どちらかというと細小血管障害により強い影響を与えると考えられています。そのため網膜や腎臓など、細い血管が密集している部分に、糖尿病特有の細小血管の障害合併症が起きてきます。

①糖尿病に特有な慢性合併症(糖尿病細小血管症)

糖尿病神経障害: 高血糖が続くと、細小血管の血流が悪くなったり、神経細胞内にソルビトールという物質がたまり、神経組織に障害が起こります。知覚神経・運動神経の障害があると、手足のしびれや痛みがあったり、逆に感覚がにぶくなったりします。喫煙は神経障害を悪化させるので禁煙しましょう。
糖尿病網膜症:糖尿病網膜症は初期だけでなく、進行した状態でも自覚症状を欠くことが多く、黄斑浮腫や硝子体出血、網膜剥離などが起こったときにはじめて視力障害を自覚する場合があります。このため、糖尿病が疑われる時点で眼科を受診し、糖尿病網膜症の有無と病期を評価してもらうことが重要です。
糖尿病性腎症:慢性的な高血糖状態に起因した細胞・組織障害と腎血行動態異常の結果生じる腎疾患です。典型的な腎症は、糸球体障害に起因した尿タンパクの増加に伴い、尿細管障害が進行し、ネフロンの喪失とともに腎機能低下をきたす進行性腎疾患です。一度低下した腎機能の回復は困難であるため、早期診断、早期治療介入による腎機能低下の予防が重要となります。現在、尿中アルブミン測定が早期診断法として使用されています。

図3 糖尿病合併症の種類

図3 糖尿病合併症の種類

②糖尿病に高頻度な動脈硬化(糖尿病大血管症)

糖尿病患者さんにおける動脈硬化性疾患の発症率は非糖尿病患者さんの3~5倍とされます。動脈硬化性疾患は糖尿病患者さんの主要な死亡原因であり、特に虚血性心疾患や脳血管疾患の比重が大きいことが特徴です。動脈硬化の危険因子として、糖尿病・耐糖能異常、高血圧、脂質異常症、喫煙、肥満(特に内蔵脂肪型肥満)、などがあります。よって糖尿病の動脈硬化発症予防において基本になるのは、食事療法、身体活動度増強、禁煙です。

冠動脈疾患:高血糖が続き、危険因子が重なると動脈硬化が進行していきます。心臓をとりまく冠動脈が狭まったり、詰まると、狭心症や心筋梗塞になります。定期的な心電図検査を行い、虚血性心疾患の早期発見に努めます。
脳血管疾患:動脈硬化が進んで脳の血管が詰まると脳梗塞になります。頸動脈病変の早期発見のため、超音波検査で内膜中膜複合体厚(IMT)の測定、プラークの有無を検査し、早期発見に努めます。
末梢動脈疾患:足の動脈が狭くなったり詰まったりして血液の流れが悪くなり、足にさまざまな症状を引き起こす病気です。初期は下肢の冷感・しびれなどを感じ、間欠性跛行(一定の距離を歩くと足や下腿が痛くなるが休むと改善する)が出現します。重症例では安静時にも痛くなり、やがては下肢末端部の皮膚潰瘍・壊死を生じます。脈波伝播速度(PWW)などから早期発見に努めます。

③糖尿病に高頻度なその他の合併症

糖尿病白内障:高血糖により水晶体の変性が起こり白濁するため、早期に視力が低下し、目のかすみなどが出現します。予防には血糖コントロールが重要です。

感染症:血糖コントロールが不良なほど感染しやすい状態が高まる傾向にあり、例えば血糖値が250mg/dl以上になると好中球貪食能(外敵をみつけて取り除く能力)は急速に低下するとされています。

歯周疾患:高血糖状態では免疫力が低下するため、口腔内細菌の増殖が促進され歯周炎が拡大します。その他、糖尿病患者さんでは歯の自浄作用も低下してきます。歯科医の定期的検診による歯石の除去などにより口腔内を清潔に保ちましょう。

がん:日本の疫学データをみると、糖尿病患者におけるがん種別相対リスクは、肝臓がん1.97倍、膵臓がん1.85倍、大腸がん1.40倍が有意に高いとされています。糖尿病とがんの両方のリスクを減少させるため、食事療法と運動療法、体重コントロール、禁煙・節酒が推奨されています。

認知症:糖尿病は脳血管性認知症、アルツハイマー病の危険因子です。運動も認知機能改善効果があることが示されています。

骨粗鬆症:骨粗鬆症は、骨吸収と骨形成のバランス破綻による骨量減少と酸化ストレスの蓄積による骨質劣化とがその原因といわれています。糖尿病は、閉経・加齢以外にこのような病態を引き起こす原因のひとつです。予防には血糖コントロールのほか、食事療法によるカルシウム、ビタミンD不足の防止が大切です。また適度な運動療法が骨量の維持に有効です。

糖尿病の診断基準1)

1)糖尿病の診断

慢性高血糖を確認し、さらに症状、臨床所見、家族歴、体重歴などを参考として医師が総合判断します。
診断にあたっては以下のいずれかを用います。

① 糖尿病型を2回確認する(1回は必ず血糖値で確認する)
② 糖尿病型(血糖値に限る)を1回確認+慢性高血糖症状の存在の確認
③ 過去に「糖尿病」と診断された証拠がある
糖尿病の臨床診断のフローチャートを図4に示します。

図4 糖尿病の臨床診断のフローチャート(糖尿病診療ガイドライン20191)より)

図4 糖尿病の臨床診断のフローチャート(糖尿病診療ガイドライン20191)より)

※ブドウ糖負荷試験(OGTT)とは
ブドウ糖を飲んで、血糖値の上がり方をみる検査です。

2)高血糖をどのように判定するか

図5 経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の判定区分と判定基準(糖尿病診療ガイドライン20191)より)

図5 経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の判定区分と判定基準(糖尿病診療ガイドライン20191)より)
※WHO=世界保健機関、ADA=米国糖尿病学会

空腹時血糖値、経口ブドウ糖負荷試験の組み合わせにより、図5のごとく糖尿病型、正常型、境界型に分けることができます。
境界型(IFG、IGT)は、糖尿病型への悪化率が高く、動脈硬化性併発症の頻度が増加します。境界型は生活習慣の修正(食事、運動、肥満があればその是正)を行い、定期的に検査することが求められます。
正常型では、糖尿病型への悪化率は年間1%未満です。しかし、空腹時血糖値100~109mg/dlにあてはまる場合、75gブドウ糖負荷試験(OGTT)により耐糖能異常を認める率が高いことが示されており、正常域のなかで正常高値として区別しています。

特定健康診査や人間ドックなどで、空腹時血糖値が正常高値や境界型にある人に対しては、経口ブドウ糖負荷試験を行うことにより、正常型、境界型あるいは糖尿病型のいずれに属するかを判定することが勧められます。また、空腹時血糖値が糖尿病領域にある人に対しては、糖尿病が強く疑われるので、ただちに医療機関を受診することが必要です。

3)糖尿病・糖代謝異常の分類

糖代謝異常の分類は成因分類(表1)を主体とし、インスリン作用不足の程度に基づく病態(図6)を併記します。
成因は大きく分けて1型、2型、その他の特定の機序・疾患によるもの、妊娠糖尿病の4つに分類されます。成因分類にあたっては、家族歴、発症年齢と経過、身体的特徴、膵島関連自己抗体など種々の臨床的情報を総合して判断します(表1)。

Ⅰ.1型(膵β細胞の破壊、通常は絶対的インスリン欠乏に至る)
A. 自己免疫性
B. 特発性
Ⅱ.2型(インスリン分泌低下を主体とするものと、インスリン抵抗性が主体で、それによりインスリンの相対的不足を伴うものなどがある)
Ⅲ.その他の特定の機序、疾患によるもの
A. 遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの
(1)膵β細胞機能にかかわる遺伝子異常
(2)インスリン作用の伝達機構にかかわる遺伝子異常
B. 他の疾患、条件に伴うもの
(1)膵外分泌疾患
(2)内分泌疾患
(3)肝疾患
(4)薬剤や化学物質によるもの
(5)感染症
(6)免疫機序によるまれな病態
(7)その他の遺伝的症候群で糖尿病を伴うことの多いもの

Ⅳ.妊娠糖尿病

表1 糖尿病と糖代謝異常の成因分類(糖尿病診療ガイドライン20191)より)

Ⅰ.1型糖尿病

主に自己免疫を基盤にした膵β細胞の破壊によりインスリンの欠乏が生じ発症します。HLAなどの遺伝因子にウィルス感染などの誘因・環境因子が加わって起こり、他の自己免疫疾患を高率に合併します。典型的には、若年者に急激に発症し、速やかにインスリン依存状態(生きていくために、注射でインスリンを補う治療が必須となる状態)に陥ります。GAD抗体など膵島関連自己抗体が証明できたものを「自己免疫性」とし、自己抗体が証明できないものを「特発性」と分類します。

Ⅱ.2型糖尿病

糖尿病患者さんの大部分を占める成因であり、多因子遺伝(遺伝要因だけでなく環境要因が加わって相互作用で個体の形質に関係する遺伝)が想定されています。インスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝因子に、過食(特に高脂肪食)・運動不足などの生活習慣、およびその結果としての肥満が環境因子として加わり発症します。糖負荷後の早期のインスリン分泌低下が特徴ですが、インスリンが枯渇し、病期がインスリン依存状態まで進む割合は限られています。

Ⅲ.その他の機序・疾患によるもの

 表1のごとく大きく2群に分けられます。(A)遺伝因子として遺伝子異常が同定されたものと、(B)種々の疾患、症候群や病態の一部として糖尿病状態を伴うものがあります。

Ⅳ.妊娠糖尿病

妊娠糖尿病は、「妊娠中にはじめて発見または発症した糖尿病にいたっていない糖代謝異常である」と定義され、妊娠中の明らかな糖尿病、糖尿病合併妊娠は含めません。
 妊娠糖尿病は経口ブドウ糖負荷試験を施行し、次の1点以上を満たした場合に診断します。
1) 空腹時血糖値92mg/dl以上
2) 1時間値180mg/dl以上
3) 2時間値153mg/dl以上
リスクファクターには、尿糖陽性、糖尿病家族歴、肥満、巨大児出産の既往、加齢などがあります。妊娠中は比較的軽度な糖代謝異常でも母児に大きな影響を与えやすいため、管理には特別な配慮が必要です。

<糖尿病の成因分類(成因)と病態(病期)の関係>
図6 糖尿病における成因(発症機序)と病態(病期)の概念 (糖尿病診療ガイドライン2019 1)より)

図6 糖尿病における成因(発症機序)と病態(病期)の概念 (糖尿病診療ガイドライン20191)より)

図6の横軸はインスリン作用不足の程度あるいは糖代謝異常の程度を表します。病態では、インスリン作用不足によって起こる高血糖の程度や病態に応じて、正常領域境界領域糖尿病領域に分けられます。糖尿病領域の中にもインスリン作用不足の程度によって、インスリン治療が不要のもの、高血糖是正に必要のもの(血糖コントロールのためにインスリン注射が必要なもの)、生存に必要のもの(ケトーシス予防や生命維持のためにインスリン投与が必要なもの)の3段階に区別します。  インスリン依存状態とはインスリンを投与しないと、ケトーシスをきたし、生命に危険が及ぶような状態をいいます。

糖尿病の管理及び治療の基本方針

1)治療の目的

糖尿病治療の目標は、高血糖に起因する代謝異常を改善することに加え、糖尿病に特徴的な併発症、および糖尿病に起こりやすい併発症の発症、増悪を防ぎ、健康な人と変わらない生活の質を保ち、健康な人と変わらない寿命を全うすることにあります(図7)。

図7 糖尿病の治療目標

図7 糖尿病の治療目標

2)血糖コントロール目標

Kumamoto studyにおいてHbA1c6.9%未満であれば細小血管症の出現する可能性が少ないことが報告され、諸外国における目標値も考慮し、HbA1c7.0%未満が併発症予防のための目標値となりました。対応する血糖値としては、空腹時血糖値130mg/dl未満、食後2時間血糖値180mg/dl未満をおおよその目安としています。よって血糖コントロール目標は可能な限り正常な代謝状態を目指すために、多くの患者さんには細小血管症予防の観点からHbA1cの目標値を7.0%未満としますが、患者さんの年齢や病態、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定します(表2)。 また、糖尿病の慢性併発症の予防、進行抑制のためには、単に血糖コントロールのみではなく、肥満を解消し、禁煙を遵守し、血圧や脂質代謝のコントロールを目指すことが重要です。

表2 糖尿病の治療目標

表2 糖尿病の治療目標
(糖尿病診療ガイドライン20191)、中村丁次:栄養食事療法必携 第4版5)を参照し作成)

※HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)とは?
赤血球はヘモグロビンというタンパク質を含みます。ヘモグロビンは、鉄を含むヘムという色素とグロビンというタンパク質の化合物です。この鉄の部分に酸素が結合して酸素化ヘモグロビンとなり、全身に酸素を運びます。
HbA1cは、ヘモグロビンが非酵素的に血中のグルコースと結合したもので、赤血球が骨髄で形成された後、末梢血中に存在する間に、血糖値に比例して糖化ヘモグロビン生成量が増加します。生成したHbA1cは、赤血球の寿命である120日間存在し続けるため、過去1~2カ月間の血糖値を反映します。このためHbA1cは、この長期間の血糖コントロールの指標として用いられ、値は総ヘモグロビン量に対するHbA1cの割合(%)で表わされます。
 HbA1cのみでは血糖値の日内変動などの細かな変化が把握できないことや、赤血球寿命との関連があるため、出血、鉄欠乏性貧血、溶結性疾患や肝硬変などでは平均血糖値を正しく反映しないことを留意する必要があります。

3)高齢者の血糖コントロール目標

図8 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標 (糖尿病診療ガイドライン20191)より)

図8 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標 (糖尿病診療ガイドライン20191)より)

高齢(65歳以上)の糖尿病患者さんにおいては、認知機能基本的ADL(着衣、入浴、トイレの使用、移動など)手段的ADL(買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理など)併存疾患なども考慮し、重症低血糖の危険性が高くなることに十分注意する必要があります(図8)。重症低血糖が心配される場合は、目標下限値を設定し、より安全な治療を行うことが重要です。
高齢者糖尿病においても、合併症予防のための目標は7.0%未満です。ただし、適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満、治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満としています。社会的サポートが乏しい場合などには8.5%未満を目標とすることも許容されます。

糖尿病の治療

糖尿病治療は、適切な食事療法と運動療法を基盤として、血糖コントロールがなお不十分であるときに薬物療法を開始します。
 運動不足や脂質摂取量増加などの生活習慣の変容が内臓脂肪蓄積・肥満を招き、2型糖尿病を増加させていることは先に述べました。見方を変えれば、糖尿病治療においては、適切な食事療法・運動療法によりインスリン抵抗性が改善し、血糖コントロールが改善することが期待できます。

1)食事療法

<食事療法3つのポイント>

(1)総エネルギー摂取量の適正化:適切な体重が維持できるような食事量と運動

摂取エネルギー摂取量の適正化によって、インスリン分泌不全(インスリンが出ない、十分な量が出せない)を補完し、肥満のある場合にはこれを解消して、インスリン作用からみた需要と供給のバランスをとり、高血糖のみならず糖尿病の種々の病態を是正することを目的としています。

(2)食事のバランス

主食、主菜、副菜を組み合わせ、各種栄養素の必要量を確保します。
ただし、腎症の合併があるときはたんぱく質の制限を行います。

(3)食事のタイミング:食事回数、食事間隔、間食、食事ごとの配分

1日の食事時刻、朝食、昼食、夕食の規則正しい食生活を送り、食事に際してはゆっくり食べること、野菜から先に食べることなどを実践しましょう。これは肥満の予防にもつながり、インスリンの利用効率も良くなります。

<エネルギー摂取量について>

BMI(Body Mass Index=体重(kg)/身長(m)2)と肥満の有無(肥満の基準:BMI≧25)を確認します。これに加えて、性・年齢・身体活動量・血糖コントロール状況・合併症の有無などを考慮してエネルギー摂取量を設定します。

<食品構成について>

適正なエネルギー摂取量の範囲内で、三大栄養素(炭水化物、タンパク質、脂質)のバランスをとり、適量のビタミン・ミネラルも摂取できるようにします。
一般的にはエネルギー摂取量の50~60%を炭水化物から摂取し、タンパク質はエネルギー摂取量の20%以下を目安とします。残りを脂質から摂取しますが、脂質が25%を超える場合は、飽和脂肪酸(肉、バター、ラードなど)を減らし、不飽和脂肪酸(魚類)や大豆、大豆製品などを増やすなど脂肪酸組成に配慮します。

<合併症を有する場合>

・高血圧合併例では、食塩摂取量は1日6g未満が推奨されます。
・高コレステロール血症合併例では、コレステロールを多く含む食品(牛・豚・鶏のレバーなどの内臓類、卵黄、魚卵⦅すじこ、いくら⦆、うに、バター、ラード、生クリーム)を控え、コレステロール摂取量を200mg/日以下にし、動物性脂肪を少なくします。
・高トリグリセリド(TG)血症の場合には、飽和脂肪酸、ショ糖(砂糖)、果糖(果物)、アルコールを控えます。アルコール摂取量は1日25g以下が推奨され、肝疾患合併例や血糖コントロール不良時は原則禁酒とします。
・微量アルブミン尿が出現したらタンパク質量を0.8~1.0g/kg標準体重とし、過剰摂取は避け、厳格なコントロールを行います。

詳しい食事療法についてはこちらをご参照ください

2)運動療法

2型糖尿病に対する運動療法は、以下の効果が示されています。

★1 運動療法の急性効果として、骨格筋におけるグルコースと遊離脂肪酸の利用が促進され、糖尿病患者さんにおいては短期的に血糖値が低下します。
★2 運動療法の慢性効果として、骨格筋をはじめとする末梢組織のインスリン抵抗性改善を介して、長期的な血糖コントロールが改善します。また、エネルギー摂取量と消費量のバランスが改善され、減量効果が期待できます。

有酸素運動を習慣的に行うと、運動中に脂肪分解を促進するホルモン分泌や脂肪分解酵素活性が上昇する6)ことが分かっています。そのため、脂肪代謝が亢進する身体となり、体脂肪が蓄積しにくく、肥満になりにくくなると考えられます(⇒ 体脂肪がつきにくい体に体質改善できる)。特に肥満を有する場合は、食事療法と運動療法を組み合わせることがインスリン抵抗性を改善させるうえで重要です。

詳しい運動療法についてはこちらをご参照ください

3)薬物療法

患者さん個人の糖尿病の病態(インスリン分泌不全、インスリン抵抗性、食後高血糖が複雑に絡み合っており、その程度も様々である)を考えて、医師が薬剤を選択していきます。糖尿病治療薬は、経口血糖降下薬(のみ薬)と注射血糖降下薬(注射)とに大別されます。

①経口血糖降下薬(のみ薬)による治療

インスリン非依存状態の糖尿病で、十分な食事療法、運動療法を2~3か月間行っても良好な血糖コントロールが得られない場合、血糖降下薬の適応となります。
血糖降下薬(のみ薬)は、その作用機序から、インスリンを効きやすくする薬インスリンを出しやすくする薬糖の吸収や排泄を調節する薬の3カテゴリーに分類することができます。さらに薬理学的観点から7系統に大別されます。

糖尿病診療ガイドライン20191)参照して作成

②注射血糖降下薬(注射)による治療

注射薬には、大きく分類してGLP-1(ジーエルピーワン)受容体作動薬と、インスリン製剤の2種類があります。GLP-1受容体作動薬は、からだからインスリンを出しやすくする作用があるのに対し、インスリン製剤はインスリンそのものを補充します。

GLP-1受容体作動薬とは?

GLP−1受容体作動薬は、主に膵臓(膵β細胞上のGLP-1受容体)に作用し、血糖値が高い場合のみにインスリンの分泌を促す作用を持つ2型糖尿病の注射薬です。「GLP-1」は、インクレチンというホルモンのひとつで、食事摂取などが刺激となり、消化管から分泌されるホルモンです。

インスリンによる治療の適応とは?

インスリン治療は、糖尿病において不足した内因性インスリン分泌を補う目的で行う治療です。1型糖尿病を含むインスリン依存状態、急性代謝失調(糖尿病性ケトアシドーシスなど)、重度の肝障害・腎障害があり食事療法でコントロールがつかない場合、妊娠中の糖代謝異常、重篤な感染症、全身管理が必要な外科手術、静脈栄養時の血糖コントロールを行う場合などインスリン治療の絶対的適応がある場合は、直ちにインスリン治療を開始します。
2型糖尿病では、食事療法、運動療法、およびインスリン以外の薬物療法によっても血糖コントロールができない場合や、高血糖による糖毒性を解除する目的でインスリン治療が行われます。

糖尿病関連ページ

参考文献


1 日本糖尿病学会、糖尿病診療ガイドライン2019、南江堂、2019
2 稲垣暢也、日本人型インスリン分泌不全を考える、日本内科学会雑誌105巻3号、2016
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/3/105_396/_pdf
3 門脇孝ほか、第三期 特定健診・特定保健指導ガイド、南山堂、2018
4 日本糖尿病療養指導士認定機構、糖尿病療養指導士ガイドブック2020、メディカルレビュー社、2020
5 中村丁次、栄養食事療法必携 第4版、医歯薬出版、2020
6 春日規克、運動生理学の基礎と発展、星雲社、2019
7 国立健康・栄養研究所、健康日本21(第二次)現状値の年次推移
https://www.nibiohn.go.jp/eiken/kenkounippon21/kenkounippon21/dete_detail.html#detail_02_03_05
8 日本老年医学会、ADLの評価方法
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/tool_03.html
9 健康・体力づくり事業財団、健康運動指導士養成講習会テキスト上、南江堂、2020
10 日本糖尿病療養指導士認定機構、糖尿病療養指導士ガイドブック2020、メディカルレビュー社、2020
11 国立国際医療研究センター、糖尿病情報センター、薬のはなし
http://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/100/index.html
12 日本糖尿病学会、糖尿病治療ガイド2018-2019、 文光堂,

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